カンバセイション・ピース

ogawamachi2006-05-16

 漫画も読むものがなくなったので、今日の夜からの読書は保坂和志カンバセイション・ピース」(新潮文庫)。カバー写真のクレジットを見ると、佐内正史。ハードカバーのときのものと同じだけれど、いい写真ですね。佇まいというか、写真の中の同じ場所に立つと、しばらく立ち止まっていたくなるような居心地の良さを感じる。保坂和志は2003年に本書を上梓してから、小説の発表はなし。だからこれがいまのところ最新作ということになる。
 舞台は東京世田谷にある古い一軒家で、かつて小説家の主人公が幼い頃に間借りしていた伯父さんの家。ここへ引っ越すことになった小説家と妻、猫三匹の暮らしに、妻の姪の大学生が転がり込み、さらに小説家の友人が経営する会社の三人も加わって奇妙な関係が始まる。しかし、傍目には奇妙でも、保坂和志の小説では、デビュー作「プレーンソング」同様、他人との共同生活が自然なことであるように感じられるから不思議。
「プレーンソング」では、人間関係、季節、風景の描写が主人公の思考(意識)のようにぐるぐると語られているけれど、それは本作も同様。しかし、登場人物の多さに加え、「家」という過去につながる回路が一つできたことで、ここには登場しない記憶でのみ語られる人物、過去の出来事などが思考する対象にさらに加わり、小説の複雑さは途方もないことになっている。いや、複雑と書いたけれど、小説に書かれてあることは本当に単純なことばかり。だけれども、読んでも読んでも前に進ませてくれないのが保坂和志の小説。それが妙に心地よかったりするのも不思議なんだが。一気に読める本ではないので、ここしばらくはこれとつき合っていこう。

■今日の売上
あぶらだこ「亀盤」 1,000円