親子できんたまに怪我

 昨晩から寝る前に読み始めた勝小吉の自伝「夢酔独言」がやたら面白くて、結局、二晩で読んでしまう。
 勝小吉とは勝海舟のオヤジで、無役の貧乏旗本。ご存じの方には常識だろうが、これがまた無頼の男で、一生を放埒三昧で過ごした人物。なにせ、14歳のとき家出をして、乞食同然に東海道から伊勢の間をふらふらしていたかと思うと、21歳のときに再び家出。このときは、さすがに怒った父から座敷牢に3年間閉じこめられた(麟太郎=海舟はこの間、生まれている)。その後も小吉の不行跡はおさまらず、剣の腕も道場破りをしても負け知らず、喧嘩も強いときては向かうところ敵なし。町内の調停役を買って出ているうちに、いつのまにか、地元の親分みたいな格好になってしまうのである。そんな小吉も晩年(といっても隠居したのは37歳だが)、自分のような人間に育ってはならぬと子々孫々への戒めとなるよう、己のやってきた悪事、反省を正直に書きつづったのがこの「夢酔独言」というわけだ。
 人物的には、マンガ「浮浪雲」をもっとニヒルにイメージしてもらえるといいかも。維新までもうすぐという江戸の町や、下級武士、町人の生活などもわかって興味がつきない内容となっています。俺の読んだのは現代語訳にあらためた角川文庫版(昭和49年・勝部真長訳編)なので、すらすらと読めるのでオススメ。巻末の解説も詳しく、これだけでも面白い。珍しい本ではないので、古本屋でも100円で手に入るでしょう。
 さて、そんなオヤジ殿と海舟の共通点といえば、抜群の調停力なのだが、もう一つある。それは、親子ともども、きんたまに怪我をしたこと。小吉は出奔中、箱根の山で野宿しているときに崖から下に落ちて岩角できんたまをしたたか打ち、膿が出るほどの怪我をした。江戸に帰ってきてから2年間は外出もできなかったというから相当の傷である。一方、海舟は9歳のとき、犬にきんたまを喰われ、死ぬか生きるかの瀬戸際をさまよった。親子そろって、きんたまは災難だったようである。
 しかし、「きんたま」という響きは間が抜けてるよなぁ。こんなのがぶら下がっているかと思うと情けなくなってくる。金太、負けるな! 昭和のオヤジギャグですいません……。


夢酔独言 他 (平凡社ライブラリー)