SF者オールドスクール派

 T原君から、「抜群に面白いですよ」と勧められていた真鍋昌平闇金ウシジマくん」を読む。と、これが滅茶苦茶おもしろい。金融がテーマというと、裏のやり口などハウツウ的な要素を駆使したマンガというイメージがあるが、ウシジマくんは違います。これは、社会の底辺をはいずりまわる人間を容赦なくえぐり出したノワール。欲望、堕落、欺瞞、暴力等々、マイナス要素がこれでもかってくらい溢れているのだが、それに熱くなることもなく、正義もふりかざさず、人間の醜いさま、絶望が淡々と描かれていく。高校生の長男に読ませたら、すっげー面白い、とはまっていた。


闇金ウシジマくん (7) (ビッグコミックス)


 そんな良書を紹介してくれたT原君は、「今年はSF者になる!」という突然の宣言。そこで、老婆心ながら必読本のリストアップを。といっても、俺は1980年にはSFから離れてしまったので、それ以前の作品から初心者向けの長編<日本編>をピックアップしてみました。この時代以降の作品については、ネットのブックガイドなどを参考にしてください。そーすれば、君もSF者になれる!?


小松左京「果しなき流れの果に」
これを越える作品はいまだ現れていないという、日本SFの金字塔。100人に聞いても、99人は異論がないよね?


星新一「人民は弱し 官吏は強し」
って、いきなりSFじゃないよ。星新一の長編SFはセレクトがむずかしいんだよなー。数も少ないし。そんなら、ということで星の父親のことを描いたこれで。明治男の波瀾万丈の生涯は、下手なSFを読むよりよっぽど有益。これに、「祖父・小金井良精の記」を続けて読めば、ショートショートの神様のバックグラウンドがよくわかります。


筒井康隆「七瀬三部作」
脱走と追跡のサンバ」を一番にあげたいところだけれど、はじめて筒井を読むなら超能力テーマのこれがベストかも。「家族八景」「七瀬ふたたび」「エディプスの恋人」の七瀬三部作を読んだら、ドタバタやブラック色の強い「俗物図鑑」「おれの血は他人の血」などに進み、さらに実験小説の「脱走と追跡のサンバ」「虚人たち」などへ進みましょう。最初に読む短編集なら「日本列島七曲り」がイチオシ!


光瀬龍百億の昼と千億の夜
これも名作中の名作ですね。宇宙ものでは無常観ただよう「たそがれに還る」「喪われた都市の記録」も初めて読んだ高校生のときにしびれたが、大人になってからは「秘伝宮本武蔵」などの時代小説もおもしろかった。


平井和正ウルフガイ・シリーズ」「死霊狩り(ゾンビーハンター)シリーズ」
平井和正といえば、生頼範義によるロケットおっぱいのお姉ちゃんの挿絵がふんだんに入ったハヤカワ文庫旧版の「ウルフガイ・シリーズ」でしょう。思えば、これらに熱中したのは中学生のころ。とにかく、「いろんな意味で」スゲーと思いました。


豊田有恒「モンゴルの残光」
歴史改変テーマの傑作。成吉思汗以後、黄色人種に支配された世界という設定も魅力だが、エンターテインメント性も抜群。騎馬民族征服説を題材にした「倭王の末裔」もオススメ。


広瀬正「マイナス・ゼロ」
上記と同じくタイムトラベルものの名作。こちらはノスタルジックあふれる作風で、しんみりします。


半村良石の血脈」「産霊山秘録」
これはどちらか1本に絞れません。もー、2冊とも返金補償の必読作。これを読んで面白くなかったら、伝奇SFは読まなくてよし! この2作を読んだら「妖星伝」へと進みましょう。「戦国自衛隊」は無理して読まなくていいです。


田中光二「わが赴くは蒼き大地」
数少ない海洋冒険SFの一作。とにかく70年代の田中光二には清心なイメージがありました。


山田正紀「宝石泥棒」
冒頭、奇怪な生き物が跋扈するジャングルの描写からしてたまりません。俺はSFマガジンで最初に連載が始まったときに読んでしびれました。


番外:山尾悠子「夢の棲む街」
最後は短編ですが、これを外すと○手落ちということで。正直、高校生のとき、これを出たばかりのハヤカワ文庫JAで読んだときは難解で歯が立たなかった。しかし、その硬質なイメージは独特で、いっぺんにファンになってしまいました。表4の著者近影も美人だし。現在、「夢の棲む街」が簡単に読めるのは「山尾悠子作品集成」しかないけれど、とても高価。幻想文学に興味があるなら別ですが、SF初心者はとりあえず積読本としておきましょう。