ランズデール作品に瞠目

 週末に仕事が一段落し、あとは版元の再校を待って入稿を残すのみ。この2、3日は何にもしないで過ごさせていただきました。久しぶりに安眠。んが、しかし、今月もう一つ入稿しなければならない書籍があるので、のんびりできるのは今日まで。午後は次男に付き合い、キャッチボールなどして遊ぶが、運動不足のため疲労。夜は「電脳コイル」の未見分をチェックしたら早めに寝るかなぁ。以下、この十日で買ったり読んだりしたもの。


楳図かずお漂流教室」完全版・第1巻

 小学館から発行されているUMEZZ PERFECTION!、今月からはいよいよ「漂流教室」の完全版が全3巻で刊行スタート。これまでの単行本で削られていた扉絵、カットなど181頁が収録されるというファンならマストのアイテム。今回も祖父江慎の装丁が凝りまくってます。売れ行きも良いようで、わが国領のリブロでもそろそろ完売の気配。


漂流教室 1 (ビッグコミックススペシャル)


荻原浩「神様からひと言」(光文社文庫

 ブック○フの105円コーナーで荻原作品を3冊購入。「オロロ畑でつかまえて」「ハードボイルド・エッグ」など初期作品以来ご無沙汰しているので、この機会にまとめ読みしようと思い立ったのでした。本書は初期のユーモアものに連なる系譜の作品。大手広告代理店をクビになった主人公が、転職した食品会社でトラブルを起こしながらも活躍するという、きわめて真っ当なサラリーマン小説。主人公の亮平の身体に人には見せられない秘密があったり、食品会社内で飛ばされた部署の面々が変人揃いといった設定は現代的だけれども、まぁ、この手は源氏鶏太の明朗小説と基本は同じ。なんだかんだいって主人公は熱血だし、恋愛の行方も絡ませてあったりするんだから。でも。奇をてらうんじゃなくて、こうした普通の小説って大事な気がするんですよね。


神様からひと言 (光文社文庫)


荻原浩「噂」(新潮文庫

「神様からひと言」から一転、「噂」は正統なサイコ・サスペンス。荻原浩の筆力がただ者ではないことを証明した作品。解説の茶木則雄氏もべた褒め。少女の足首を切断する連続殺人に、都市伝説や新発売の香水のキャンペーンが絡み、刑事のコンビ(妻を交通事故で亡くした所轄の巡査部長、かたや本庁のエリート女性警部補)が渋谷の街を這いずり回るという設定。結末を読めば、それに至る前半の伏線を探さずにはいられないでしょう。


噂 (新潮文庫)


荻原浩コールドゲーム」(新潮文庫
 
 青春ミステリとは銘打たれているものの、これもどちらかというとサイコもの。中学時代、いじめに遭っていたクラスメートが、高校生になった同級生を次々と襲撃。主人公らかつての同級生は再び集まり、この復讐劇を止めさせるべく行動を開始する。調査を重ねるうち、昔のいじめの標的は、身長185センチ、格闘技まで身につけた恐るべき獣に生まれ変わっていた……。青春ものというには、後味の悪さが格別。


コールドゲーム (新潮文庫)


ジョー・R・ランズデール「凍てついた七月」(角川文庫)

 サイコものをもう少し読みたくなり、本棚にあったジョー・R・ランズデールの初期作品をセレクトしてみました。こちらは米国南部、テキサス州の片田舎が舞台。となれば、差別の根強い閉鎖的な社会で起きる殺人劇、もしくはイカれたサイコさんのスプラッタが定番というもの。本書のひねりがきいているのは、幕開けの殺人劇がほんの序章に過ぎず(真夜中に忍び込んだ賊を射殺した主人公だが、その賊の父親から執拗に追い回される)、射殺された賊がまったくの別人と判った前半部が一転、主人公とその男が二人で真相を明らかにしようと動き出してから。男の親友だという私立探偵も加わるのだが、この探偵のジム・ボムが最高におかしい。こんな具合。
・作戦会議中、食事をしながら主人公の妻アンに向かって。
「ドレッシングをとってくれ。その、誰かが瓶の中でゲロったみたいなやつ」
・ギャラが高いと文句を言ったアンにまたもや……。
「まったく、女ってやつは。屁が出るまで一ドル札を握り締めてる」
とまぁ、こんな下品な感じの男なんだけど、これが捜査を開始すると別人のようなスーパーマンに変身。腕っ節も滅法強いし、家に帰れば、肉から野菜まで自分で作っちゃうエコな人。おまけにハッキング技術まで独学で習得したインテリなんです。
 ジム・ボムはこれ以降の作品に登場しないようだけど、この作品は当たり。コメディのように書いちゃったけど、そんなことないですよ。じつは途中で涙が出てくるほどシリアスな話。今週はしばらくランズデールの作品を追っかけてみよう。
 


凍てついた七月 (角川文庫)