素敵な奥さん

 深夜、本を読んでいるときに困るのが、おいしそうな食べ物のシーンが出てきたとき。1時、2時ともなると夕食からずいぶん時間が経ち、小腹が空いてくる。そこへ美味そうな献立やら珍味の描写をされると、こちらのお腹もぐーぐーと鳴り、何か食べたくなってしょうがない。そんな罪な小説の一つが、最近ぽつぽつと読み始めた芦原すなお「ミミズクとオリーブ」(創元推理文庫)。小説家夫婦の平々凡々な日常に事件が持ち込まれ、料理上手の奥さんが鮮やかに解決してみせるという安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)もの。

……焼いたマテ貝の入った「分葱和え」、南瓜のきんとん。讃岐名物の「醤油豆」。焼いたカマスのすり身と味噌をこね合わせた「さつま」、黒砂糖と醤油で煮付けた豆腐と揚げの煮物。カラ付きの小海老と拍子木に切った大根の煮しめ。新ジャガと小ぶりの目板ガレイ(ぼくらの故郷ではこれをメダカと呼ぶ)の唐揚げ、などが今日の献立であった。
「ああ、田舎臭くて実にうまい!」と、カブト煮警部は言った。……

 ねっ、美味そうでしょ!? 香川県の郷土料理なので食べたことのないものばかりだけど、想像するだにヨダレが出てくる。こんな料理上手のお嫁さん、うらやましいなぁ。芦原すなおといえば「青春デンデケデケデケ」ですが、これもただの青春小説と思っていると大間違い。あっと驚くような快作なので、ぜひご一読を。


ミミズクとオリーブ (創元推理文庫)