風が強く吹いている

 青春短距離小説に続き、昨晩も陸上をテーマにした小説を読む。隣の歌声男改め絶叫男がうるさいので、読書で意識を遮断しているのだよ。さて、今回手にしたのは、三浦しをん「風が強く吹いている」(新潮社)。都内の八幡山付近とおぼしきオンボロアパートの住人10人(洒落)が、箱根駅伝に挑むという青春小説。が、作者が三浦しをんだけに、そう簡単な青春小説にさせちゃくれません。10人のうち、陸上経験者は3人のみ。うち、本当に速いのは新一年生の蔵原走(かける)だけで、走をボロアパートに引き込んだ張本人の清瀬灰二(ハイジ)は足に爆弾を抱えているし、留年して25歳になっている平田彰宏(ニコチャン)はヘビースモーカー。他の面々はというと、漫画オタク(王子)、国費留学の外国人学生(ムサ)、クイズマニア(キング)、司法試験合格の優等生(ユキ)、サッカー経験者の双子(ジョータとジョージ)、朴訥な田舎の青年(神童)というまったくの未経験者揃い。これでいきなり箱根駅伝に出場できるのかといわれれば普通は無理なのだが、そこはそれフィクションの醍醐味、強引な筆さばきで見事出場を果たしちゃうのだ。ド素人たちが練習を始めていくあたりまでのおかしさは、映画「シコふんじゃった」を思い出したくらいのコミカルさ。この辺は三浦しをんの普段のエッセイから想像できるのだが、驚くべきは後半のレース展開での筆力。箱根駅伝を走る10人それぞれのキャラクターを見事に描き分け、しかも感動さえ与えてくれるのだから。これだけのあざとい娯楽作品を30歳にして書いちゃうって、とんでもないよ。しかも、頁を繰るのももどかしいほどの面白さ。現在、20刷だそうで俺がこれ以上すすめるのなんですが、とにかく超強力プッシュな作品。今回は図書館で借りてきたけど、次に文庫化されたときには買ってもう一度読むぞ。


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