イギリスの階級

ogawamachi2006-05-10

 夜、福井ミカの「ラブ&キッス英国〜イギリスは暮らしの達人」(講談社・1996年刊)を読む。サディスティック・ミカ・バンド解散以後のミカの動向が知りたく、100円は安いものと興味本位で買ってあったもの。しかし、これが意外というか、教えられるところの多い良い本でした。
 彼女の経歴については、加藤和彦の最初の奥さんで、ミカ・バンドを結成、「タイムマシンにお願い」などの曲を残し、その後、加藤氏と離婚。「黒船」「Hot! Menu」のプロデューサーだったクリス・トーマスのいるイギリスへ渡る……。と、ここまでは音楽ファンならある程度の年齢の人ならご承知のとおり。この本は加藤氏と別れ、彼女がイギリスでどう暮らしたか、内縁の夫クリス・トーマス(結局、籍は入れなかった)やその義母との生活がおもにつづられているのだが、ここで注意をひかれるのが、トーマス家はイギリスのアッパー・ミドル・クラスに属し、その暮らしぶりが日本で想像される「中流」とは大きくかけ離れているということ。
 ご存じのようにイギリスは階級社会といわれるが、日本ではおおざっぱに上流、中産、労働者層と3つの階級があるぐらいにしか思われていない。が、本当は中産にはさらに3つの層が存在する。整理すると以下のようになる。

・上流…アッパー・クラス(王族・貴族・大地主などほんの一握りの人々)
・中産…アッパー・ミドル・クラス(准男爵から大企業の社長・高級官僚・医者・弁護士・富裕商人など)
   …ミドル・ミドル・クラス(下院議員・中小企業経営者・農場主・ジャーナリスト・上級管理職・中級公務員など)
   …ロウアー・ミドル・クラス(下級公務員・教師・会社員など)
・労働者層…ワーキング・クラス(技師・運転手・職人・店員など肉体労働者)

 と、まあ、同じ中産階級でもアッパーとロウアーの間には天と地ほどの開きがあるわけです。しかもアッパー・ミドル・クラスにはそれなりの血筋というか家系があり、クリス・トーマスの父はオーストラリア銀行の頭取、お祖父さんは第二次世界大戦大西洋憲章の連合国共同宣言調印式にイギリスを代表して出席という人物。そんなセレブな名門なのであるが、これで中産というのだから嫌になる。
 現在ではよほどの家柄でない限り使用人を雇うのは難しくなっているが、アッパー・ミドル・クラスでは家に使用人がいるのも常識。トーマス家の場合、過去にはこんなに使用人がいたのだそうだ。これも列挙する。

・バトラー…使用人頭。いわゆる執事。個室が与えられる
・ガーデナー…庭師
以上の2名が男性。以下は女性。
・ハウスメイド…コック
・キッチンメイド…ハウスメイドの下の役
・パーラーメイド…ベッドルーム担当
・レディーズメイド…奥様専用のメイドというか秘書(アリストクラスという上流家庭のみにいる)
ハウスキーパー…メイドたちを管理する役。個室が与えられる
・コンパーニオン…その家の主人とともに食卓につき、お年寄りなど、その家庭の話し相手をする役。その他、秘書、看護婦、運転手などの役目も。

 と、使用人だけでも昔はこんなにいたんだそうです。日本語でも「ハウスキーパー」「コンパーニオン(コンパニオン)」とはいうけれど、もとの正しい意味は全然違うことがわかる。こうした使用人の上に君臨するのがその家の奥様であるわけだが、これだけの人数を指揮して家事一切を取り仕切るわけだから、当然、管理能力は相当のもの。イギリスが植民地支配が上手かったのは、こんなアッパー・ミドル・クラスの生活の一端からも垣間見える。その他、住宅事情、英国式の食事、お茶の作法、家具やインテリアの選び方や手入れ、ガーデニング、田舎暮らし、などなど、ミカさんの経験談は実際にイギリスの中産階級のものだから説得力があり、とてもためになりました。こうした階級についての知識があれば、イギリスの小説、映画、音楽がもっと楽しめるはずですね。
 蛇足ながら、ネットで福井ミカのプロフィールを探すと生年月日不詳としているものが多かったけれど、この本にはちゃんと1949年4月17日生まれ、と出ている。みんな、ネットのコピペですまさないで、ちゃんと本を読んで調べようよ!

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