さらに黒川

 寝る前に途中まで読んでおこうと思い、今晩も黒川博行。「八号古墳に消えて」(創元推理文庫)。黒マメコンビの三作目、今回は考古学会を舞台に、大学のポスト争い、遺跡発掘の利権などが絡んだ連続殺人事件に挑むという趣向。ちょっとだけ読むつもりが、結局最後まで読んでしまう。黒川警察小説・犯罪小説の特色は事前の取材が綿密で、殺人事件の舞台となる世界・業界のことがよくわかり、それがことごとく時代に先行しているということ。この作品が刊行されたのは1988年。それから12年後の2000年11月、宮城県上高森遺跡での旧石器発掘捏造事件が起こった。現在、黒川博行は犯罪小説専門で警察小説といえば横山秀夫の専売特許のようになってしまっているけれど、黒川警察小説は大阪の刑事が主人公だけにからっとして見えるのが特色。横山もいいけど黒川も捨てがたいですね。ちなみに、横山秀夫の小説を初めて読んだときは、警察機構の腐敗、その中を這いずり回る警察官という泥臭くじめじめした感触が結城昌治の「夜の終わる時」など、一連の刑事ものとの近親性を感じさせた。結城昌治はいっときはまり、ほぼすべての小説を読んだが、もっともっと評価されるべき作家という思いは今も変わらない。ミステリ好きの皆さんは結城昌治なら長編の「ゴメスの名はゴメス」、私立探偵の真木シリーズ(「暗い落日」「公園には誰もいない」など)から手に取るかもしれませんが、それをはじめに読むと結城昌治を単なるハードボイルド派の作家と見誤ります。いま読むなら、初期のスマートなユーモア推理もの(「死者におくる花束はない」など)や、ピカレスク・ロマンの傑作「白昼堂々」がおすすめですが、結城昌治の凄みとは、じつは短編小説にあるんですよ。


八号古墳に消えて (創元推理文庫)