スポ根漫画の怪作ほか

 お尻の件では一部の方からメールやら電話をいただき、ご心配をおかけいたしました。ありがとうございますm(_ _)m 小川町のお尻はもうすっかり良くなりました。もう、椅子に長時間座っても平気です。自転車も乗れます。トイレでお尻を拭くときの恐怖感も去りました。
 さて、先々週末、きつい原稿書きの仕事が終わり、本日からは別件の仕事。それまではひたすら漫画ばかり読んでいたのだが、一昨日はめずらしく小説を手に取った。宮部みゆき「孤宿の人」(新人物往来社)。ようやく図書館で借りられたので早速読み始めたのだけれど、これまでの同氏の江戸を舞台にした小説と同様のものを期待すると肩透かしをくらう一冊(いい意味で)。本書は江戸時代に生きる武士と庶民が封建制に翻弄されるさまを描いたもので、幕藩体制の矛盾やむごさといったものがテーマ。これまでの作品なら主人公(ヒロイン)を見守る周囲の人々との交流が予定調和的におさまっていくのだが、本書ではそんな人々が罪もなく次々と死んでゆく。主人公の周囲はラストに至るまで死屍累々です。それもこれも、徳川将軍家から末端の陣屋大名までが「お家大事」という意識にがんじがらめにされ、庶民は庶民で小さな縄張り意識にとらわれているから。そんななか主人公のほうは、阿呆の「呆」から方角の「方」、最後には宝物の「宝」と名前を変え、ようやく個を確立するに至るのですが、それとて、姉代わりの宇佐をなくすという代償を払わなければならなかった。下巻からは涙なくしては読めなかったです(俺はね。最近とくに涙もろいですから)。市井のドラマから、制度へと視点を変え、新たなテーマに挑戦した作者の意欲作として、俺はおおいに評価したい一冊。


孤宿の人 上


 漫画の方はというと、温故知新シリーズと勝手に銘打った旧作の集中読書で、下記がそれ。

浦沢直樹YAWARA!」全29巻
浦沢直樹「HAPPY!」全23巻
古谷実ヒミズ」全4巻
古谷実シガテラ」全6巻

 このなかで特筆すべきは、浦沢直樹「HAPPY!」。未読の方は「YAWARA!のテニス版じゃねぇの?」と思ってらっしゃるかもしれませんが、これはそれ以上の怪作。まぁ、ある意味、「YAWARA!」のテニス版という言い方は当たっているのだけれど、ポジとネガという言い方のほうがより正確ですね。「YAWARA!」の猪熊柔は最初から世界一強い女の子で、家庭にも恵まれていれば、周囲のライバルたちもいい奴ばかり。それにひきかえ、「HAPPY!」の海野幸はといえば、失踪した兄の借金2億5千万円を肩代わりしなければならないわ、フグ毒で死んだ両親にかわって弟妹3人の面倒を見なければならないわ、ヤクザに追われるわ、試合では次々と嫌がらせを受けるわで、不幸のどん底にいるような女の子。まさに花登筺の小説(ドラマ)をスポ根漫画に置き換えたような作品なのです。
 さらに、「YAWARA!」全巻を読んだ方なら、次の登場人物の置き換えにも注目ですね。

・本阿弥さやか+加賀邦子→竜ヶ崎蝶子(幸のライバル。テニス界のアイドル的存在だが、裏では幸を陥れるためには手段を選ばない策略家。この蝶子のいじわるというか、謀略があまりにひどいので、この作品が売れなかった一因とも)
・風祭進之介→鳳圭一郎(幸の中学時代の憧れの先輩。お坊ちゃんであることにかわりはないが、「HAPPY!」では風祭進之介よりもたくましいイメージを与えられている)
・松田耕作→桜田純二(幸を追う借金取り。はじめは幸をソープに売り飛ばそうとするが、のちに応援するようになる)

 最初から最後までテンションが落ちないのも特筆すべき点で、まぁ、とにかく読んでみてくださいとしか言いようがない作品。浦沢漫画では一番知名度はないものの、俺ならいの一番に上げたい。「MONSTER」は一回読めば満足する作品だけど、「HAPPY!」は何度でも読める!(俺はすでに3回、巻によっては4、5回読みました)。


Happy! (23) (ビッグコミックス)


 以下は、最近の新刊から。
古谷実わにとかげぎす」1〜3巻

 さえない主人公に美人さんの彼女ができて、というのは古谷作品のパターンなんだけど(俺は好き)、今回の主人公は30歳過ぎの守衛。主人公の年齢が上がったことに注目していたのだけれど、ヤングマガジン本誌では急な最終回とのこと。次回作に期待、ということなのかな。いずれにしても残念。


わにとかげぎす(3) (ヤンマガKCスペシャル)


山崎さやかはるか17」第16巻

 この漫画を読んでいるのも俺ぐらい? 面白いんだけどなぁ。早くにドラマ化したのは明らかに失敗。

沙村広明無限の住人」第21巻

 最終章開幕。連載開始より13年だそう。これは、完結してからまとめ読みだな。


無限の住人(21) (アフタヌーンKC)


石川雅之もやしもん」第5巻

 書店での動きを見ていたら、今回は特装版より通常版のほうが早く売れていた。この作品もアニメ化だそうだが、脚本はどの回までまとめるんだろう。アニメ化も何でもありだな。とりあえず知名度から選んでないか?


PEACH-PITローゼンメイデン」第8巻

 最初の感想。「う、薄い。。」。いきなりの最終巻で、こりゃ、版元と何かあったに違いないと思ってネットをググったら、それらしき経緯が。新たな雑誌で始めてもらわないと、ファンはおさまりがつかないのではないでしょうか。ローゼン麻生外相の感想はいかに?


Rozen Maiden (8) (バーズコミックス)