内なる殺人者

 ファンタジー小説が続いてしまったので、今日はがらりと気分を変えてジム・トンプスン「内なる殺人者」(河出文庫)。保安官補なんだけど、殺人狂のサイコさんが主人公という一人称小説。こいつがまぁ、何のためらいもなく次々と殺人を犯していくわけですが、快楽殺人かというとそうではなく、犯行を隠蔽するためだけに人を殺していく。その内面が一人称で語られるのだが、主人公の行動や論理が当たり前のようにすらすらと語られるために、読んでいるこちらまでが空恐ろしくなってくる仕掛け。ラストの祈りとも呪いとも取れる主人公の独白が結びとなり、これがこの小説を凡百のクライムノベルと一線を画す作品たらしめている箇所ですね。1952年発表というから、当時は主人公の抱える病理も理解されなかっただろうな。ちなみに俺が読んだのは1990年発行の河出文庫版だが、現在は扶桑社海外文庫でスティーヴン・キングの解説がついている新訳版(「おれの中の殺し屋」と改題)が発売中です。


おれの中の殺し屋 (扶桑社ミステリー)