袋小路の男

 パソコンの故障などもろもろあって、元気の出ようがない今日この頃です。寝る前に読んだのが絲山秋子「袋小路の男」講談社。袋小路……。メタファーとしてはまさに俺の置かれた状況なのだが、本書はもちろんそんな内容ではなく、不器用といえなくもない、現代の男女の恋愛を描いた小説。12年間思い続ける男(小田切孝)に対して、指一本触れたことがない女(大谷日向子)の側からの視点で描いた表題作。その続編「小田切孝の言い分」では、小田切と大谷の一人称がゆるやかに交代しながら、表題作からもう一歩踏み込んだそれぞれの本音が語られていくという趣向。絲山秋子のブログはずっと前から読んでいたけど、小説を読むのはこれが初めて。いや、うまいもんですね。って、川端康成賞、芥川賞をとっている作家に言う言葉じゃないですけど。3編目の40歳を過ぎた清掃工場に勤める男とその姪の中学3年生との書簡形式の短編「アーリオ オーリオ」で本書は幕を閉じるのだけれど、共通してあるのはコミュニケーション不全に置かれた人間の飢渇感。さらりと書いてるように見えるけど、あとからジワジワきいてきます。


袋小路の男 (講談社文庫)