タイトルは素敵ですが

 昨晩の酒を抜くべく、朝風呂に入る。フリーで嬉しいことのひとつが、好きな時間に風呂に入れること。明るい時間に湯に浸かっていると、とりあえずいやなことから逃避できる。これではダメなんだが。
 夜、角田光代「あしたはうんと遠くへいこう」(角川文庫)読了。この作品でも読者の共感を呼びにくいというか、それだけ純粋で不器用な女の子が主人公。両親が駆け落ちして暮らす田舎の温泉町から東京に出てきて、次々と場当たり的な恋愛に身をやつす。バンドマンとの同棲、クラブで知り合った大麻、薬を媒介とした行きずりの男たちとのセックス、年下のスケーターとの地方都市への逃避、スポーツジムのインストラクターとの二股……。それでも彼女の精神は満たされることはなく、男と別れるたびに、荷物を整理し、部屋も自分も空っぽにして、次の男へと遍歴する。はたから見ればどうしようもない女なのだろうが、それでも恋愛で幸せになりたいと真摯に考えている。その真面目さが、相手についてけないと思わせているのだが、本人はまったく自覚できていず、性懲りもなく同じ失敗を繰り返して行く。ラストに多少救われた感はあるものの、痛い女の痛い恋愛話であることに変わりはない。人とつながろうとすることへの切実な願いを描くために設定された主人公だろうが、こう人に好かれないキャラばかり出してくるところが角田光代の偉いところ。角田作品がどれも不気味な感じがするのは、登場人物のいびつさも関係しているからかも。


あしたはうんと遠くへいこう (角川文庫)

あしたはうんと遠くへいこう (角川文庫)